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ガスクロマトグラフ

ガスクロマトグラフとは?装置の仕組みと分析可能な化合物一覧

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ガスクロマトグラフ(GC)は、熱で気化する気体や液体に含まれる特定のガスの量(濃度)を測定する装置です。成分(化合物)ごとに分離・定量できるので、例えば、都市部の空気に含まれた有害物質や、工場から排出されるガス濃度を計測する際にも使用可能です。分析精度が高く、汎用性が高いことから、現在ではさまざまな分野で活躍しています。
そこで今回は、ガスクロマトグラフ(GC)の概要や原理、装置の構成、分析できる化合物などについてご紹介します。

※記事内のガスクロマトグラフは「装置」、ガスクロマトグラフィーは「測定法」、ガスクロマトグラムは「測定結果」を指します。

ガスクロマトグラフ(GC)とは?

以下、ガスクトマトグラフの概要、原理、歴史などについて解説します。

概要

ガスクロマトグラフ(GC:Gas Chromatography)とは、気体や液体に含まれる成分の性質や量(濃度)を測定する装置です。日本では「ガスクロ」とも呼ばれており、各成分がどのような化合物なのか(定性分析)、各成分がどのくらいの量・濃度なのか(定量分析)を数値化し、可視化します。
ガスクロマトグラフは多成分を迅速かつ正確に解析でき、液体試料(※1)だと試料量が1μL(マイクロリットル)ほどでも検査が可能です。希少な試料を分析する際にも役立つため、科学分野を中心に活躍しています。

※1:試料(しりょう)とは、試験や分析、検査などに供される物質。見本・サンプル。

原理と歴史

ガスクロマトグラフィー(, GC)は、クロマトグラフィーという分析法の一種です。気体や液体をカラムと呼ばれる管に通し、内部にある充填材(固定相)との相互作用によって混合物を分離。その後、検出器にて分離した成分の検出・測定を行います。

高い精度で成分を分離できるガスクロマトグラフィーは、高速液体クロマトグラフィー(HPLC:High Performance Liquid Chromatography)とともに汎用性の高い分析手法として知られています。例えば、医薬品の芳香や薬効、香水などの成分を表す際、対象となる物質に含まれている成分やその量を調べる必要がありますが、これらもクロマトグラフィーの原理を利用しています。

クロマトグラフィーの原理は、100年以上も前の1900年代にミハイル・ツヴェット(1872-1919)によって確立されたといわれています。1950年代にはガスクロマトグラフが開発され、当初は石油産業を中心に活躍していたそうです。
そして現在、ガスクロマトグラフは食品や化学、製薬、法医学、環境などジャンルを問わずさまざまな分野で多用されており、世界中の技術者を支えるまでに発展しています。

カラムとは?

カラムとは、細長い配管に充填材(細かい砂のようなもの)が詰まっているもの、または配管の内壁に液相が塗られているものです(※2)。
ガスクロマトグラフィーにおける成分の分離は、カラムを通ることで起こります。注入した気体がカラムに入ると、成分の大きさや、内部にある充填材・液相との相互作用(分配・吸着)によって成分ごとに分離します。

※2:硝子やステンレスの管に充填材を詰めたものや、担体に浸透・塗布したものを「パックドカラム」といい、中空細管の内壁に液相や吸着剤を塗布、または化学結合させたものを「キャピラリーカラム」という。

ガスクロマトグラフ(GC)の装置構成とは

ガスクロマトグラフは「キャリアガス(移動相)」「サンプル導入部(注入口)」「カラム(分離部・固定相)」「検出器」「データ処理部」の5つのセクションで構成されています。

1.キャリヤーガス流量制御部

キャリアヤーガス(移動相)は、ガスクロマトグラフの流路に流し続けるガスのこと。分析する試料をカラムに流し込む媒体の役割を果たします。反応性の低い単一のガスが使用されるケースが多く、ヘリウムや水素、窒素、アルゴンなどが使われています。

ガス源は、ガスボンベ(ガスシリンダー)が一般的です。高圧充填されているため、カラムに導入する際は調整器によって排出するガスの量や圧力を一定にする必要があります。

2.サンプル注入口

サンプル注入口は試料をカラムに導入するための部分で、制御部とカラムの間に位置しています。ごく少量かつ同じ体積のガスを注入する必要があるため、試料を注入する際はシリンジポンプなどが使用されるのが一般的です。例えば、工場からの排ガスを測定する際、煙突付近から空気を袋に採取。そこからシリンジポンプで空気を抜き取り、サンプル導入部に注入するのです。
LDetek社では、サンプルラインをGCに接続しておけば独自アルゴリズムにより自動で分析することができます。

ガスクロマトグラフィーにおいて、試料が分離されるためには気体の状態じゃなければなりません。そのため、サンプル導入部にはサンプルガスを気化させるための温度調節機能が備わっており、液体試料の場合は「試料気化室」の役割も兼ねます。
サンプルガスの温度管理が不十分だと正しい分析結果が出ないため、分析対象のガスに合わせて適切なインジェクターを選ぶことが大切です。

なお、温度が低いと気化に時間が掛かるので、カラムへのサンプル導入に時間がかかりピーク検出が曖昧になります。逆に、温度が高いとサンプルガスが熱分解(重合)を起こし、分析の意味がなくなってしまいます(分析エラーの一例)。

3.カラム

前述したように、ガスクロマトグラフの分離はカラムを通るときに起こります。

多くの場合、サンプルガスには複数の化合物が混ざっています。仮にA・B・Cの3つの化合物が混ざっていた場合、キャリアガスが流れ続けている流路に少量のサンプルガスを注入すると、カラムに詰まった充填材によって化合物の流れが阻害。これにより、カラム内を進む3つの化合物の速度は変化し、カラムの出口(検出器)へ到着するのにA・B・Cで時間差が生じます(分離)。

バラバラにざっていた3つの化合物を同じ成分ごとに区分できるため、どの成分が含まれているのか、それぞれの量(濃度)はどれくらいかを測定することが可能になるのです。

なお、カラムは温度によって機能の精度が左右されます。温度を一定に保つため、カラム恒温槽と呼ばれる高温の箱に収納されています。

4.検出器

検出器では、カラムで分離された成分を検出します。検出器で得られたシグナルは、データ処理部へ電気信号として送られます。

検出器には、FID(水素炎イオン化検出器)、TCD(熱伝導度検出器)、NPD(窒素リン検出器)、FPD(炎光光度検出器)などの種類があります。企業によっては独自開発した検出器を用いているケースもあり、例えば、LDetek社のガスクロマトグラフは光の強度を検出できる「PED(プラズマ発光式検出器)」を採用しています。
検出器によって原理や応用性が異なるので、分析する成分に合わせて選定することが大切です。

5.データ処理部

データ処理部では、検出器から送られてきた電気信号をパソコンと解析用ソフトウェアで分析し、データとして出力します。クロマトグラフィーによって得られた分離結果は、クロマトグラムやマススペクトル(※3)にて確認することが可能です。

※3:質量分析(Mass spectrometry)の結果、得られる二次元表示。縦軸を信号強度、横軸をm/z(エム・オーバー・ジー:質量電荷比)で表しており、飲料分子の構造情報が多く含まれている。

ガスクロマトグラフ(GC)で分析できる化合物と分析できない化合物

ガスクロマトグラフで分析できる化合物、できない化合物は以下のとおりです。

分析できる化合物

ガスクロマトグラフによって分析できる化合物の特徴、分析対象となるガスの種類、分野別の対象化合物の一例をご紹介します。

分析できる化合物の特徴
・ガス状または気化する化合物
・低分子(分子量1,000以下が目安)
・熱安定性が高い(沸点400〜500℃以下が目安)
・気化するときの温度で分解しない
・気化するときの温度で分解しても、定量的な分解が生じる(熱分解GC)
分析対象となるガスの種類
希ガス アルゴン(Ar)、ヘリウム(He)、ネオン(Ne)
クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)
永久ガス 水素(H2)、酸素(O2)、窒素(N2)
一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO2)、水(H2O)
炭素 四フッ化炭素(CF4)、六フッ化エタン(C2F6)
温室効果ガス 六フッ化硫黄(SF6)、亜酸化窒素(N2O)
無機系ガス 三フッ化窒素(NF3)
無機/有機系ガス アンモニア(NH3)、ホスフィン(PH3)、アルシン(AsH3)
毒性ガス アンモニア(NH3)、ホスフィン(PH3)、アルシン(AsH3)
揮発(きはつ)性芳香族 ベンゼン(C6H6)、トルエン(C7H8)、キシレン(C8H18)
硫黄ガス  硫化水素(H2S)、二酸化硫黄(SO2)、二硫化炭素(CS2)、メタンチオール(CH4S)、テトラヒドロチオフェン(THT)
ブチルメルカプタン(TBM)
炭酸水素ガス メタン(CH4)、非メタン炭化水素(NMHC)
アセチレン(C2H2)、エチレン(C2H4)、エタン(C2H6)
プロピレン(C3H6)、プロパン(C3H8)
プロピン(C3H4)、プロパジエン(C3H4)
ブタジエン(C4H6)、シクロブタン(C4H8)
イソブタン(C4H10)
シクロペンテン(C5H8)、シクロペンタン(C5H10)
イソペンタン(C5H12)
ヘキセン(C6H12)、イソヘキサン(C6H14)
シクロヘプタン(C7H14)、へプタン(C7H16)
シクロオクタン(C8H16)、オクタン(C8H18)
分野別の対象化合物の一例
食品、飲料 糖類、ビタミン、抗生物質、香料、香気成分、異臭、かび臭(2/4/6-トリクロロアニソール、ジェオスミン など)、残留農薬、フタル酸エステル、動物用医薬品、POPs(Persistent Organic Pollutants:残留性有機汚染物質)、カビ毒(マイコトキシン)、食品添加物(着色料、人工甘味料、染料、保存料など)、香辛料、脂肪酸、非意図的添加物、食品包装 など
化学、工業、石油化学 モノマー、ポリマー、シリコン、化粧品、化成品、原料、添加剤、不純物、溶剤、BTEX、精油、合成物、副生成物、反応中間体、反応生成物、可塑剤、インク、石油、エンジンオイル、ナフサ、天然ガス、工業用水、冷却水、洗浄水、炭化水素、多環芳香族炭化水素(PAHs)、バイオディーゼル など
製薬、医薬、メタボロミクス 低分子医薬品、原薬、中間体、医薬品中残留溶媒、バイオマーカー、薬物代謝物、糖鎖、アミノ酸、シアル酸、オリゴ糖、脂肪酸メチルエステル(FAME)、脂質、脂肪酸、エラストマー など
法医学、毒物 薬物、デザイナードラッグ、ドーピング関連(禁止物質および薬物、ステロイド など)、代謝物、アンフェタミン、カンナビノイド など
環境 除草剤、ゴルフ場農薬、有機リン系農薬、有機塩素系農薬、POPs(残留性有機汚染物質)、無機イオン、無機酸、有機酸、医薬品およびパーソナルケア製品(PPCP)、有機フッ素化合物(PFCs)、天然物、植物代謝物、揮発性化合物(VOCs)、高揮発性有機化合物(VVOCs)、半揮発性化合物(SVOCs)、フラン、ポリ塩化ビフェニル(PCBs)、ダイオキシン など

分析できない化合物

ガスクロマトグラフでの分析ができない、または難しい化合物は以下の特徴があります。

分析できない化合物の特徴
・気化しない(無機金属、イオン類、塩類 など)
・反応性が高く、化学的に不安定(フッ酸や塩酸、硝酸などの強酸類、オゾン、NOx(nitrogen oxides:窒素酸化物)など)
分析が難しい化合物の特徴
・吸着性が高い(カルボキシル基、水酸基、アミノ酸、硫黄などを含む化合物 など)
・標準品の入手が難しい(ピーク時の確認は可能だが、定性・定量が困難なため分析しづらい)

ガスクロマトグラフはあらゆる分野の可能性を広げる機器

ガスクロマトグラフ(GC)はさまざまなガスから成分を検出でき、かつ一度に多くの成分の検出・分析が可能です。現在では食品や化学、製薬、法医学、環境など多くの分野で活躍していることから、汎用性が高い分析手法として知られています。もちろん、ガスクロマトグラフでは分析できない化合物もありますが、それ以上に多くの化合物の分離に利用できるため、今後も多くの分野の研究を支える機器になるでしょう。

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