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水素エネルギーのメリットと水素の貯蔵・輸送方法について
水素エネルギーのメリットと水素の貯蔵・輸送方法について
「水素」は、自然に優しい未来エネルギーとして注目されており、これからの脱炭素社会の実現になくてはなりません。しかし、現時点で水素エネルギーにはリスクや課題もあるため、水素の製造や輸送、貯蔵などに関するビジネスに手を伸ばすなら、水素エネルギーについての知識を身につけることが重要です。
そこで今回は、水素エネルギーの基礎知識をはじめ、水素の特徴や貯蔵方法などについてご紹介します。ぜひご一読ください。
水素エネルギーとは?
世の中では、さまざまなものがエネルギーとして活用されています。例えば、風力・火力・太陽光・原子力などがありますが、エネルギー資源として活用している水素(水)を「水素エネルギー」といいます。
地球上にはさまざまな元素がありますが、水素は酸素とケイ素に次いで3番目に多く、資源枯渇の心配がないとされています。地球の表面にある水素原子は、そのほとんどが海水の状態で存在していますが、それは水素が酸素と結合(燃焼)して水になるからです。
水素分子(H2)+酸素分子(O2)=水(H2O) |
このことから地球上には膨大な水素があると言えますが、海水のままだと水素をエネルギーとして活用するのは難しいため、水素を工業的に製造する必要があります。
なお、水素は水(海水)以外の形でも存在しており、化石燃料やバイオマス(動植物などから作られる有機性のエネルギー資源)、汚泥などの中にも含まれています。
メリット
水素エネルギーのメリットには、主に「環境負荷の軽さ」と「エネルギー効率の高さ」の2つが挙げられます。以下では、水素エネルギーの2つのメリットについて解説します。
環境負荷の軽さ
水素エネルギーのメリットは、環境負荷の軽さにあります。例えば、化石燃料(石炭、石油、天然ガスなど)は燃やすと二酸化炭素(CO2)が発生しますが、水素は燃焼しても二酸化炭素が排出されません。
二酸化炭素をはじめ、温室効果ガス削減を目指す「脱炭素社会」は世界の課題です。日本では政府が「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする(※1)」と表明しており、脱炭素社会への歩みがはじまっています。つまり、水素エネルギーの安定供給が実現すれば、脱炭素社会の実現に一歩近づくことになるのです。
ただし、水素エネルギーには製造段階で課題があります。水素の製造には化石燃料を使うことが多く、製造の際には二酸化炭素が排出されてしまいます。また、化石燃料を採掘する際も二酸化炭素が排出されることから、環境に配慮していると言えるのか、と疑問視する声もあるのです。
製造時の二酸化炭素の排出量を抑えるためにも「水を電気分解して水素を取り出す」「バイオマスをガス化して改質する」など、地球に優しい方法で水素エネルギーを安定供給することが期待されています。
なお、日本では太陽光発電を利用した水素エネルギーの生産が実証されています。二酸化炭素が排出されない水素製造が可能になれば、再生可能エネルギーとして長く愛されるでしょう。
※1:温室効果ガスの排出を抑制するほか、排出された二酸化炭素を回収することで実質的に差し引きゼロにしようとする考え方
エネルギー効率の高さ
水素はエネルギー効率が高く、質量あたりのエネルギーはガソリンの約3倍です。エネルギー変換効率に優れており、熱や電気としても利用できるため、水素のエネルギーとしての価値は軒並み高いと言えます。
また、電気分解によって水から水素を生成し蓄えておけば、仮に電力が不足しても水素を使って発電することで電力をまかなうことも可能です。加えて、再生可能エネルギーによって作られた余剰電力を使い、電気分解によって生成した水素を金属に貯蔵すれば、遠方へ輸送したり機器へ活用したりといったこともできるでしょう。
なお、エネルギー効率の高さは、事故の際の被害を大きくする要因にもなります。貯蔵している水素を漏らさないこと、漏れてしまったら素早く検知すること、漏れた水素をそのままにしないことが大切なので、水素設備を設ける際は管理を徹底することが大切です。
水素の特徴と主な貯蔵方法
こちらでは、水素の特徴や輸送・貯蔵方法などについて解説します。
水素は軽い。留意すべき輸送・貯蔵のこと
水素は「地球上で最も軽い(密度が低い)」です。1m3あたりの質量は90gで(0℃・1気圧のとき)、空気(1,293g)や酸素(1,429g)、二酸化炭素(1,977g)、窒素(1,251g)などと比較すると一目瞭然でしょう。また、空気よりも軽い天然ガスと比較しても3分の1ほどしかありません。
水素をエネルギーとして活用するためには、たくさんの量を貯蔵する必要があります。しかし、水素は密度が低く空気中に放出すると速やかに広がるため、水素を製造後(温度・1気圧)にそのまま輸送・貯蔵するとなると、かなりのスペースが必要になり非効率です。
水素社会の実現には「水素を小さな容量に、いかに多く貯蔵できるか」が鍵であり、そのための研究が進められています。
次では、水素の輸送・貯蔵方法についてご紹介します。
高圧圧縮での貯蔵
水素を圧縮し、高圧ガスとして輸送・貯蔵します。最も一般的な貯蔵方法ですが、高圧水素には金属に入り込み脆くするという性質があるため(水素脆化)、貯蔵用のタンクには通常の鋼鉄を使用することはできません。特殊ステンレス鋼やアルミニウム合金などの水素脆化に強い材料を使ったタンクを使わなくてはならず、現在は低コスト化に向けて開発が進められています。
水素の圧縮には一定のエネルギーが必要ですが、例えば充填圧力が20MPaなら常圧の状態と比較して約200分の1に圧縮できるため輸送効率は高まるでしょう。また、気体のままなので燃料としてすぐに使用できるというメリットもあります。
金属を使用した貯蔵
プラチナやパラジウムなどの金属に水素原子を吸蔵(きゅうぞう)させて輸送・貯蔵します。吸蔵とは、気体が固体に吸収される現象のこと。金属に水素が取り込まれる現象を利用して貯蔵に生かしており、水素を吸収した金属は「水素吸蔵合金」と呼ばれています。
水素吸蔵合金では、水素を分子の状態で貯蔵できます。常圧で水素を貯蔵できるため扱いやすく、またガス状態のときと比較して体積は約1,000分の1になるため、輸送・貯蔵効率は高いと言えるでしょう。
一つ欠点を挙げるとするなら金属そのものの重量です。例えば、電気自動車に利用するとして、400kmの航続距離を叶えようとすると4kgの水素が必要になります。4kgの水素を吸蔵するには約300kgの金属が必要とされているため、車体に搭載するには現実的とは言えません。
現在では軽量化の研究が進められており、電力消費が少ない機器に関してはそれなりに軽くすることが可能となっています。実用化される未来も夢ではないでしょう。
他物質への変換を用いた貯蔵(有機ハイドライド)
水素をトルエンなどの有機物と触媒反応させ、有機ハイドライド(メチルシクロヘキサン:MCH)として輸送・貯蔵します。水素とトルエンによってできるMCHは常温常圧で安定するほか、輸送・貯蔵に特殊な容器を必要としないため扱いやすいという特徴があります。また、常圧のガス状態と比較して約500分の1の体積になるため、多くの水素を軽量・コンパクトに貯蔵することが可能です。
なお、 MCHから水素を取り出すとトルエンが残りますが、そのトルエンはMCH生成の原料として再利用できます。
パイプラインでの貯蔵
都市ガスのように、パイプラインで輸送・貯蔵します。工業用水素の輸送手段として用いられており、大量の水素を安定輸送できますが、大規模なインフラ投資が必要なこともあり日本ではまだ一般的とは言い切れません。ただし、北九州の水素タウンをはじめ一部のコンビナートや化学工場などではパイプラインでの水素貯蔵が行われている例もあります。
水素の貯蔵効率が上がる。エネルギーキャリアの特性<
こちらでは、圧縮水素や液化水素、有機ハイドライドのほか、将来的な水素輸送・貯蔵の手法として検討されているアンモニアの特性をまとめています。
圧縮水素 (700気圧) |
液化水素 | 有機ハイドライド (メチルシクロヘキサン) |
アンモニア | |
分子量 | 2.0 | 2.0 | 98.2 | 17.0 |
水素含有量 (重量%) |
100 | 100 | 6.2 | 17.8 |
水素密度 (kg-H2/m3) |
39.6 | 70.8 | 47.3 | 121 |
沸点 (℃) |
― | -253 | 101 | -33.4 |
水素放出エンタルビー変化 ※(kJ/mol-H2) |
― | 0.90 | 67.5 | 30.6 |
その他の特性 | ・強引火性 ・強可燃性 ・爆発性 |
・水素密度が高い ・リサイクルが不要 ・高純度,高圧の水素が得やすい |
・常温常圧で利用可能 ・既存石油インフラが利用可能 |
・水素密度が高い ・リサイクルが不要 ・直接利用も可能 |
※ 水素放出エンタルピー変化:水素を取り出す際に必要なエネルギー
引用:内閣府・科学技術振興機構(2016)SIP エネルギーキャリア
安全性とリスクを踏まえた水素輸送・貯蔵方法の確立が求められている
水素から生じる電気・熱エネルギーは、二酸化炭素を排出しないため、脱炭素を目指す世界中で幅広い実用化が期待されています。将来的に、水素はさまざまな場で重宝する再生可能エネルギーとなるでしょうが、現時点では水素の輸送・貯蔵にはメリットだけでなく、デメリットも少なくありません。双方を踏まえた上で、将来的に活用できる水素の輸送・貯蔵方法を確立することが大切です。
水素設備検討の際は、品質管理のための露点計・酸素濃度計も検討が必要
産業・工業において、水素エネルギーの確保は急務になりつつあります。水素設備の設計・運用を検討している企業も少なくないでしょうが、水素の輸送・貯蔵には多大な注意が必要です。
たった数℃温度が上がる、不純物が混じるなど、工場の管理が十分でなければ事故などのリスクを招くこともあるでしょう。品質管理と安全性の確保のためにも、設備には十分な配慮をおすすめします。
露点計測・酸素濃度計測などでお困りの際は、ミッシェルジャパン株式会社までご相談ください。
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Application Note: ーー | |
アプリケーションノートはございません。 | |
ミッシェル社紹介ページ | https://processsensing.co.jp/wp_pst/about-us/michell-instruments/ |
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https://www.processsensing.co.jp/products/easidew-transmitter/ |
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